2019年6月に発表された金融庁のレポートは、「老後資金2,000万円」という数字だけが独り歩きしましたが、その内容は非常に研究し尽くされていて、重要なポイントを提唱していました。

金融庁が推奨する資産運用の要旨
もう一度、人生の各ステージで重要なポイントをまとめると以下の通りとなります。
① 現役時代
A) できる限り早い時期から、「長期・積立・分散」という投資を開始
B) 各自のニーズに合わせたプランを信頼できるアドバイザーを見つけて相談
C) 長期的に低コストで運用できる金融機関を選択
② リタイア前後
A) できるだけ早く退職金(一時金・年金)の金額や支給方法の情報収集
B) 年金受給開始から30年間のライフプランを作成し、計画的な資産取り崩し
C) 想定キャッシュフローが不足するなら、就労継続含めた収支改善
③ 高齢期
A) 介護・医療費などを見据えたマネープランの見直し
B) 認知判断能力の衰えに備える
金融庁のレポートでは、上記のような自助努力を支援するために環境整備が欠かせないと指摘しています。それらが「長期・積立・分散」投資を実現するための制度である「つみたてNISA」と「iDeCo (個人型確定拠出年金)」です。

つみたてNISAは毎年40万円まで20年間にわたり運用益が非課税になり、いつでも引き出し可能。運用商品は手数料が低い投資信託のみのため、比較的リスクが低いファンドが多く、証券投資初心者向きになっています。
一方の個人型確定拠出年金のiDeCoは、就業状況によって上限が変わりますが、最高年額816,000円までの掛金全額所得控除になり、運用益へも非課税で、年金受給時にも税制優遇があり節税効果は大きいです。しかし、年金という性格から積立期間は最低10年間で満60歳以降からしか引き出せません。金融庁のレポートでは、お互いを補完する商品なので併用が望ましいとしています。

つみたてNISAより先に、投資入門者増加促進するため、非課税期間が5年間と短いが非課税上限が年間120万円という一般NISAが導入されました。
以下の現状をみると、一般NISAは入門者だけでなく一般投資家の拡大に貢献しましたが、つみたてNISAの利用状況は増加してはいますが低普及率のままです。
意外にも節税効果が大きいiDeCoの加入者が少ないのは、企業年金制度がある大企業ではなんと95%以上が規約で個人型企業年金の加入を認めていないからです。このため、年間加入限度額に余裕がある会社員でも加入できないという事情があります。ただ、これは大幅な見直しが検討されていますので、その時点で50歳未満の皆さんは即断即決で加入しましょう。
金融庁のレポートが提唱した最重要ポイント
このレポートでは、最後ににこれらの税制優遇による個人投資家の底辺拡大施策以外に以下の施策が重要だと指摘しています。
① 金融リテラシー向上の取り組み:以前のメルマガでも紹介したように、日本人の預貯金志向は異常に高いです。これは子供の頃から「お金の勉強」をしておらず、また現在でも「お金を学ぶ」機会が限定的です。金融リテラシー向上の取り組みが重要だと指摘してはいますが、具体的な方策については触れていません。つまり、しばらくは自分で学んでいくしかないようです。
② アドバイザーの充実:個々人のライフスタイルが多様化する中、金融商品やサービスも多様化してきており、金融リテラシーのあまり高くない人々には困難が伴うため、各自の状況に合わせて的確にアドバイスできるアドバイザーの存在が重要となります。米国ではファイナンシャルプランナーなど、金融機関から独立したアドバイザーが多数存在し、確固たる地位を築いていますが、日本では認知度が低く活用されていないため、その認知拡大と質的向上が今後重要であると指摘しています。
③ 高齢顧客保護:高齢期の顧客対応については、個々の企業レベルでなく、金融業界として横断的に見直していく必要があるとしています。しかしながら、準国営金融機関のかんぽ生命が高齢者をターゲットにして、組織ぐるみの不適切な販売をしていたことが発覚しています。成年後見制度や家族信託などで自己防衛していく必要があると思われます。
今回までは、金融庁のレポートをベースにして資産形成と資産寿命を延ばす方向性について解説してきました。
麻生元大臣が受取を拒否したこのレポートですが、未だに金融庁のホームページに全文掲載されています。マスコミに叩かれて改ざんされたかどうかは不明ですが(笑)、ご興味のある方は原本をご一読ください。https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
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